新月を過ぎた夜に。

死紺亭柳竹


最早「最早、戦後ではない」ではなかった。
狂ったように 時代が 成長するなか
あのひとは 狂ったように
身体を 酷使して 爆笑をさらった。
もう 若くはないし、彼の肉は、
高度成長なんか してなかったのに。

「全員集合!」と
あのひとが 喉を 紅く腫らせば
観客は 無邪気に 期待だけした。
丁度 楼閣の回転扉から 飛び出し
何の疑いもなしに 満開の桜に見ほれる
罪を知らなくてもよい 子どもたちの様。
しかし 陰の極まりが
桜の樹を ただ陽気に見せているだけだ。

子どもたちはコドモでよく、
観客はオキャクでよかった、最後の時代。

独裁者も 自分たちも
平等に写した かつての美しき踊り手が
アフリカにもどった時
村落の人びとは くちぐちに
「レニが、帰ってきた!」と 喜んだ。
同じように 大陸を愛した あのひとの
魂を どう人びとは むかえるのだろう。
ゴリラにも、オランウータンにも、
彼は 確かに 似ていた。
けれど 死ぬまでは
「森の人」には なれなかった。

いまごろになって 追悼詩を仕上げる
へっぽこ詩人の腕前を
あのひとは
傲慢にも似た優しすぎる眼で
天空から 凝視して
また いつものように
深い許しを 唇から 吐き出してみせる。

「だめだこりゃ。」

そして 霊は 三日月を弦に
ウッドベースを しずかに 弾いている。

 

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