第4回

安田倫子
関係性
難 しい人 なのである
プリズムの話術でとり巻く人々をいつも驚かせながら
めったに自分の話はしない
携帯電話は一発で繁がった試しはなく
そのくせこちらが受けないと留守電に文句が入る
困った人なのである
まれにみるプライドの高さは見ていて実に爽快だ
美人でデキル女なのである
終電を逃した合図、深夜の焼肉屋への誘いは一宿一飯の恩義だった
義理堅い人でもある

私は自分がとても大事にしているものについて
彼女にくりかえし語る
それが大事にしているものとの接し方について
私自身が再確認するための行為であることを
彼女はよく理解していたので
いつでも肯定的に突き放してくれる
彼女は自分がとても憎んでいるものについて
私に多くは語らないが
質問する形でそれにしらじらしくモザイクをかけてアピールするので
私は彼女が一番気に入らない模範解答を提示する
そう、彼女の憎しみは多くの人が大事にしているものに触れている

私達は これでもかというほど考え方が違う
が、それを表現するスタイルがおそろしく似ているため
実におもしろい関係でいられる
例えばどちらかが男だったとしたら
絶対に付き合いたくない相手ではあるが
間違いでもあって1回でもヤっちゃったりしたら
翌日から一緒に暮らしているような関係だ
彼女はいきなりビールを土産に家へ押しかけてきて
風呂に直行するような女だ
何かがおかしいと思いながらも
着替えとつまみを用意するのが私
「ねえ結婚したくなぁい?」と夢見がちに焦っているのは彼女で
「ぜんぜん。」相手にしないのが私
お金よ車よブランドにステイタス、私の嫌いなものを好む彼女と
愛だよ恋だよ真心・友情、彼女の嫌いな言葉をよく使う私
二人の会話は認めざるを得ない相性の上で繰り広げられる三文芝居

しかし彼女はことばの匂いに敏感な人でもある
独特な嗅覚をもって
時々どこからか引用してきたものをご丁寧にも私に読んでくれたり
スルーの冊子をぱらぱらめくっては腋に落ちない顔をし
TVを前にひとり揚げ足を取っては格闘する
彼女は偽善的な言葉を最も嫌う と推測する ことにしておこう
彼女の鼻は
匂いのない言葉、或いは悪臭を放つ言葉に過敏に反応する
そして真心以上の真心をこめた言葉で対応しておきながら
それを喜ぶ者達をあざける
心にもない言葉というものを彼女は常に試している
自分自身にも
迷惑な話だが 見ていて実に楽しい
「友情なんてその程度よ」彼女はそう言いながら
「最近できた友達」とやらを今度私に紹介してくれるらしい
懲りない人である
まったくこの私を何だと思っているのか
飽きない人である
同性でよかった
心の底からそう思う


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