リレーエッセイ・猫         第6回

 
不思議猫「オイ」
  猫 ママ

皆様に可愛がっていただきました当店の看板猫「オイ」は、数々の伝説を残して,
2006年2月13日午前9時30分「猫の国」に旅立ちました。
3日間食べ物を口にせず、3日間姿を見せず、
4日目に帰ってきたと思ったらもうその時には「オイ」は旅立ちの準備を終えていました。

 



「オイ」は大好きだった店主の腕の中で眠るように逝きました。
不思議な猫「オイ」は私どもの自慢です。少しだけ猫自慢をお許し願いたい。
「オイ」は、なぜか人間の言葉が分かっているようでした。カウンターの椅子に座っていても隣の人たちの話し声に返事することも度々ありました。
話題が自分のことだと分かると、実に嬉しそうに甘い声で鳴くのです。オスらしい威厳や猛々しさとは無縁でした。鳴き声も甲高くで他の猫に混ざっていてもすぐに「オイ」の鳴き声と分かるほどハイトーンでした。


常連のお客様だけでなく誰でも「オイ」は愛嬌を振りまいていました。あまりにも人の顔をじっと見つめるので驚かれる方も居ました。
「オイ」は人の心に寄り添う猫でした。悲しいときは、心の奥深くへ入ってきて慰めてくれました。
楽しい時は、何時までも一緒に遊んでくれました。
店主と喧嘩して、思わず大声を出すと自分は知らないとばかり、「イヤだなぁー」
と姿勢を低くして匍匐前進で椅子の下に身を隠してしまいます。
その姿の可笑しさに、いつの間にか喧嘩も馬鹿らしくなり苦笑いが笑顔に変わってしまうのです。
   

豊潤で濃密な6年間を
「オイ」という名の猫と過ごせましたことは、
只々感謝ということでしか表せません。
私達の所に来てくれて有り難う。
私達は幸せでしたが「オイ」は幸せでしたか?
思いはずっーと引きづったまま。

「オイ」と居る時間は癒されるという単純な事ではなく
そこにいるだけで心が温かくなるのです。



実際「オイ」は、気が付くと店のお気に入りの場所で一日の大半を寝て過ごしていました。よく寝るね「寝子」だねとお客様にも言われておりました。
其れでもひとたび店の外へ出れば地域のボス猫で言い寄ってくる雌猫も何匹いたことか?その落差に苦笑と驚きが度々。私たちを和ませたり戸惑わせたり。
不思議猫としか云いようがありません。


最後に「オイ」が残してくれた今でも「何だったんだろう」と「?」が頭の中を駆け巡る出来事がひとつ。
「オイ」を店の前で火葬車による火葬が始められた直後、其れを見守るかのように猫達が集まって来たのです。6匹ほど居りましたでしょうか。
「参列してくれたんだ」「オイの猫徳だね」
店主共々、新たな涙で胸詰まらせました。

 


ところが驚きがまだまだ続いて、「オイ」の遺骨を「オイ」がいつも寝ておりました座布団に置いて「オイ」を偲んでおりました時、突然子猫が一匹、店の中まで入ってきて、「オイ」の遺骨に擦り寄っていったんです。ただただ驚きで時間がとまってしまったかのようでした。
その子猫は、一昨年店の天井で生まれた「オイ」の子供ということは分かっていたのですが、その日まで店の中まで入ってくることなど無かったのです。
子猫は遺骨に鼻の先を擦り付けてミヤ〜アと一声鳴いて、ドアから出ていきました。
その時店の中には常連のお客様もいらしたんですが、一同驚くばかりでした。


その後、店の前の路地は猫の国になりました。
今年生まれたばかりのきじトラの子猫が3匹、
今日も店の前をピヨンピヨン跳ね回っています。

「オイ」の大親友K嬢から「オイ」への
メッセージが届きました。
K嬢にご承認戴き、ご披露いたしたいと思います。

 

拝啓 オイちゃんへ

オイがどんな風にその場所で生活して愛されていたか心に染み入りました。
子供たちにも見守られてこんなに幸せな猫はいないと思います。
あのメールをいただいてからずっとオイのことを思い出しています。
忘れられない思い出ばかりで涙があふれます。
特に鮮烈なのはいつかの冬、私が彼と喧嘩をしてしまい深夜に家を出たところ
丁度オイが通りがかってニャァと鳴くので
オイとしばらく散歩をしたことです。
寒かったので飲み物を買おうとしたら
「だんだん」の前の自販機が売り切れで
私は白山駅のセブンイレブンまで行く事にしました。
いつもならオイは公園のあたりまでしか一緒に来ないのに
その日に限ってなぜかセブンイレブンの前までついてきました。
飲み物を買うために「ちょっとまっててね」と声をかけると
オイはゴミバコの横にちょこんと腰を下ろしました。
私が暖かいお茶を買って店を出るとちゃんとオイは待っていてくれました。
猫がそんな事をしてくれるなんて聞いた事も無いので大変驚きつつも
ポケットのなかにお茶を入れてきた道を戻りました。
アパートのしたの踊り場でお茶をすすると
いつもなら横に座るだけのオイが膝の上にあがり
手を舐めてくれました。
あの日はオイがいつもしない事を沢山してくれて
ずーっと一緒に居てくれたので大分心も落ち着き
彼と仲直りする事が出来ました。
もしかして、オイには私の事が解っていたのかもしれません。
オイとは沢山話をして沢山聞いてもらって
猫なのに猫じゃないような、とてもとても大切な存在でした。
今、自分の猫と暮らしていますが
まだまだオイとのような空気は作れません。
もしかしてあの子を超える猫にはもう会えないかもしれないです。
オイとなら歩いて日本中を旅することができたかもしれません。


これにてひとまず猫のエッセイーはお休みとさせていただきます。
つたない文章を最後までお読みいただき有り難う御座いました。
また、「オイ」を今まで可愛がってくださいました方々にも、
「オイ」から沢山の幸せが届きますように。

 

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